第7章 鬼の宴
なら、人間の仁美は?
無惨は仁美の栗色の目を見つめると、ゆっくりと顔を近付けた。
血色の悪い仁美の唇に触れると、ゆっくり目を閉じる。
愚かで心が弱い人間の方が懐柔するのは簡単だった。
人間は絶対的な恐怖の前には抵抗する事すら諦める。
簡単に堕ちるのだ。
そして愚かにもその理由にも向き合わない。
考える事を辞めて強い者に流れていく。
無惨は弱い人間の行動心理をよく知っていた。
愚かだと思いながらも、強者に屈服する口付けをする仁美がまた好ましい。
「外に出るのはいいが怪我をして血を流す事はするな。」
無惨は仁美の足の無数の傷を見て言った。
彼女の血を見たら、また体が鬼に変貌するだろう。
無惨は仁美にとっては無害でいたかった。
支配するのは恐怖では無く。
離れ難いほどの愛情を向けられる方が望ましい。
仁美は無惨の言葉に小さく頷いた。
鬼への嫌悪感も恐怖も、こうして無惨から向けられる優しさだけが気持ちを和らいでくれた。