第6章 虹色の目の無神論者
仁美は咄嗟に童磨を突き飛ばした。
「っひっー…っ。」
喉で詰まった様な声を出して、ズリズリと床を這って童磨から逃げた。
「何故逃げる。」
そんな仁美を簡単に捕まえると抱き抱えた。
童磨の胸元に手が触れると、ヌルッとした液体の感触がした。
赤く染まる手を見て、それが血だとすぐに分かる。
「気持ちが昂って仁美に噛み付かない様に食べてたんだ。仁美には傷を付ける事はしないよ。」
子供をあやす様に笑顔で童磨は言った。
しかし仁美は顔を青くしたまま小刻みに震えている。
「あっ……はっ……はぁ…。」
過呼吸の様に浅い息を繰り返す仁美の頭を童磨は優しく撫でた。
童磨が想像した通り、仁美は鬼が人間を食べる事を知らなかった。
鬼と共に過ごしたにも関わらず。
あの牙は本来どの様に使われるか初めて知ったのだ。
「俺たちは飢餓を人間で凌いでるし、人間を食えば強くなれる。仁美は食用なんかじゃないよ。俺にとっても可愛い娘だから。」
まるで愛を告白する様に顔を赤めて言う童磨を見て眩暈がした。