第6章 虹色の目の無神論者
仁美はその場にへたり込む様に腰を落とした。
恐怖と受け入れ難い光景を前にして逃げようとしていた足は完全に止まったしまった。
「っうっ!!!」
胃から込み上げてくるモノに思わず嗚咽と同時に口を手で覆った。
吐きたくても胃液しか出なかった。
それでも何度も嗚咽を繰り返して喉を胃酸が通って熱くさせた。
「…はぁ……はぁ……はぁ……。」
仁美は自分が吐き出したモノをずっと見つめていた。
この体は鬼から産まれて出来たモノだ。
鬼に貪られて悍ましいのでは無い。
産まれた事がそもそも悍ましい生き物だったのだ。
「……仁美。」
座り込んだ仁美の頭上から声が聞こえた。
仁美はゆっくりと顔を上げて真っ青になった顔で目を見開いて童磨を見上げた。
「今夜仁美を抱けると思ったから気持ちを抑えようとしてね……。部屋から出てきちゃダメだろ。」
いつもの惚けた物言いの笑顔で童磨は仁美に言った。
彼から滴る人の血に仁美は目を細くした。
童磨が仁美を抱き上げようとした時血の匂いが強烈に香った。