第6章 虹色の目の無神論者
「………え………。」
仁美は橋を渡る手前で足を止めた。
橋の中央に童磨の背中を見つけた。
それだけだったらまだ良かった。
仁美が足を止めて凝視しているのは、その童磨の周りに散らばっている肉片だった。
最初はソレが何か分からなかったが、池に響く咀嚼音と冷たい空気に混じった強烈な血の匂い。
散らばった肉片に人の手を見つけて、仁美はやっとその状況を理解した。
ーーーー鬼が人を喰っている。
仁美の足が震えてその場に座り込んだ。
仁美はこの時まで鬼が人を食べると言う事を知らなかった。
(…ああ…だけど……。)
本当はその可能性を知っていた。
自分の心臓の音が鼓膜に響いた。
体の震えは大きくなり、仁美は大きな目を見開いて涙を浮かべた。
たまに母親から血の匂いがした。
フラッと出て行って帰って来た時に確かに同じ香りがした。
どんな物語でも鬼と人間が共存出来ない理由も全て分かっていた。
だけど毎夜現れるあの赤い目が。
毎夜髪を結っていたあの手が………。
全てだったから……。
そんなはずは無いと真実から目を逸らしていた。