第5章 傲岸不遜の鬼
鬼は息を荒くさせ、それ以上の衝動を抑えている様だった。
驚愕したまま仁美は鬼を凝視していた。
「…無事に明日を迎えたいなら、あのお方の前で一雫の涙も流さない事だね。」
異様な鬼の忠告に仁美は背筋がヒヤリとした。
その後は何事も無かったかの様に準備は進められた。
暗い部屋で1人、仁美は椅子に座っていた。
手に持っているブーケを見つめながら、仁美は先程鬼が言った言葉を考えていた。
…私が嫁ぐのは鬼だ。
これが普通の祝言でない事も分かっている。
たまに無残な惨殺死体が載られた記事などには、「鬼畜の所業」などと書かれている。
そんな記事を見れば、鬼がどんな生き物なのか理解している。
だけど、仁美が知っている無惨は全く別の生き物だった。
彼女が知っている鬼も母親位で、彼らは書物に描かれている鬼とは違うと信じていた。
(……だけど…さっきの鬼の目は……。)
仁美は先程の鬼を思い出すと、また背筋に悪寒が走った。
あれは……被食者を見つけた捕食者の目だった。