第5章 傲岸不遜の鬼
婚礼衣装を着飾ってくれたのは鬼だった。
彼女の縦長の瞳孔と牙で、仁美はすぐに鬼だと分かった。
と言うより、仁美は人間を見た事が無い。
無惨は仁美に人間を会わせない様にしていた。
理由は不要な里心が付く事を避ける為だった。
この部屋にも鏡が無かったので、初めて見る白いドレスを1人で着る事が出来なかったので、仁美は彼女に身を任せた。
髪を結ってくれる彼女の手際に、仁美は自分の母親の事を思い出した。
もし今も母親が居てくれていたら、こうして婚礼衣装を着せてくれたのは彼女だったのかもしれない。
そんな事を考えたら仁美は涙が流れた。
その仁美の涙を見て、髪を結っていた鬼の手が止まった。
そして漂ってきた甘い香りに鬼の喉が上下に動いた。
「っ!!!!」
仁美はそのいきなりの出来事に、体を反転させて驚いた様に鬼を見た。
鬼は、仁美の涙を舌で舐め取ったのだった。
恍悦の顔で仁美を見る鬼に仁美はゾッとした。