第5章 傲岸不遜の鬼
それは親を無くして不安で泣いた顔を見た時か。
旦那様と言い頬を染めた顔を見た時か。
はたまた自分と同じ様に母親の腹の中で死を迎え、それでも懸命に生き抜いたあの小さな生命体を見た時か。
旦那様と呼ぶ様になってから、たまに私を盗み見て顔を赤く染め。
恋を知ったばかりの仁美の表情は、大変好ましく私を刺激した。
無惨は下ろしている仁美の髪に指を絡めた。
例え血肉を啜らなくとも、仁美の香りは空腹を満たしてくれる。
少女から大人の女に変わった仁美を見て、まだこの体を抱くのは先で良いと思っていた。
だけどどうやら、もうそんな気持ちなど持てなかった。
仁美の涙や、絡まった舌から得られる体液で、人間の姿を維持できないほど気分が昂った。
たかが人間の子供相手に戯れを起こしているだけだと思っていたが、全く違った様だ。
明日の夜に人間の花嫁が鬼に喰われる。
それはおとぎ話に出てくる鬼の花嫁の末路の様に。