第5章 傲岸不遜の鬼
(あ……牙…。)
無惨の牙が仁美の唇に触れた。
それでもその時にはもう彼の首に腕を絡ませ、絡みつく舌を受け入れていた。
愚かな事に、親にもあったこの牙が本来どの様に向かうか知らなかった。
少し噛みつけば簡単にその皮膚を貫く事など、その時は考えもつかなかったのだ。
「あ…ちゅっ…はぁ……。」
繰り返す口付けで、仁美の顔は紅潮して、吐く息は熱くなってきた。
触れた時に体温を感じなかった無惨の唇も、同じ様に熱くなるのを感じた。
(…旦那様……旦那様……。)
仁美は夢中になって彼に応えながら、心の中で何度も無惨を呼んだ。
一方無惨は自身の体の変化に小さな違和感を覚えていた。
仁美の前に現れる時は人の姿で現れていた。
しかし、仁美の目を見れば自身の目が鬼となり。
彼女に触れれば意図しなくても牙が生えた。
仁美に触れれば触れるほど、人間に紛れていても全て剥がされる様だった。
仁美の体液が絡めば体の奥から熱いモノが全身に広がった。
それを興奮だと自分でも自覚しないまま、赤い目は腕の中で恍悦に涙する女を見ていた。