第5章 傲岸不遜の鬼
仁美が知っている床は生木を敷き詰めていて、歩くとキシキシと音がした。
その部屋の床には絨毯が引いてあり、無惨が彼女を下ろしても裸足が触れても冷たくなかった。
火だった灯りは電気が通っている。
仁美は知識として都会にはこの様な洋館がある事を知っていた。
その部屋は寝室で、布団しか知らない仁美の前には大きなベットがあった。
何もかもが生まれ育った場所とは違っていた。
「……………。」
仁美は息を呑む様にその部屋を見渡した。
「…お前はここに住む事になる。この屋敷の主がお前を正妻として迎える。」
「え?!」
無惨は仁美に背を向けたまま言った。
「い…嫌です!旦那様!!」
仁美は思わずその背中にしがみ付いた。
仁美が好きなのは彼だった。
彼以外の男との婚姻なんて結びたく無かった。
無惨は仁美の腕を取ると仁美に向き直った。
その瞬間部屋の明かりが消えて、また彼の顔は暗闇の中で赤い目だけを輝かせた。
「この屋敷の主は私だ。」
無惨は仁美の頬に手を置いて、そう伝えた。