第5章 傲岸不遜の鬼
私は旦那様に捨てられるのだろうか。
そんな不安を抱いた。
「仁美。」
「……はい旦那様。」
仁美は俯いたまま答えた。
無惨は膝を突き仁美の顎を掴んで顔を上げさせた。
「お前は私の元に来るんだ。」
仁美は無惨の言葉に驚きて目を見開いた。
赤い目はいつもと変わらずなんの感情も見えなかった。
だけど彼の後ろに見える月が、一段と光っている様だった。
「……はい…旦那様。」
仁美は母親が居なくなった悲しみと不安、そして救われた安堵の気持ちで涙が出た。
仁美の涙を指で拭うと、無惨は仁美を抱き上げた。
ジャランッ。
その瞬間住み慣れた部屋は消え、瞬く間に仁美は見知らぬ部屋に無惨と一緒に居た。
「………ここは……。」
そこは仁美が知っている居とは、随分とかけ離れていた。
仁美の住んでいた場所の窓は、木枠で穴が空いているだけだった。
その部屋の窓にはガラスが張ってあり、窓を開けなくても外の月がハッキリと見えた。