第5章 傲岸不遜の鬼
それからしばらくして、母親の鬼が帰って来なくなった。
彼女がフラッといなくなる事は多々あったが、朝になるまでは必ず帰って来た。
その彼女が朝になっても現れなかった。
仁美は彼女が自分の母親である事は知っていた。
言葉を交わさなくても、彼女が鬼でも、自分と血が繋がっている母親だと本能で感じていた。
娘がお母さんと呼んでも表情1つ変えない鬼だった。
仁美が成長して、自分の事は自分で出来るようになっても、髪だけは毎日結ってくれていた。
鏡が無い家だったので、自分でやるには不便だったからかもしれない。
だけど髪を梳かし、丁寧に結い上げる仕草は、少しだけ親子の情を感じる時間でもあった。
その日仁美は寝て起きたまま、髪も結わず彼女の帰りを待った。
夜も耽った頃に現れたのは母親の鬼ではなくて、赤い目の男だった。
「……旦那様……。」
仁美はそこで母親がもう帰って来ない事に気が付いた。
鬼は鬼殺隊の剣士に殺されたのだ。
仁美は床に座り込み顔を俯かせた。
これから1人で生きていく準備をしなくてはいけない。