第5章 傲岸不遜の鬼
そう聞かれた時、仁美は布団の中で手を動かした。
「………妻が夫に対して使います…。」
仁美は顔を真っ赤にして、申し訳無さそうに言った。
その時に、無惨は仁美は自分に好意を持っていると知った。
いや、旦那様と呼ばれた時から分かっていた。
主に対して使いたければご主人様でよい。
無惨は髪を触れていた手を動かして頬に触れた。
「…旦那様…。」
仁美がそう呟いた時、無惨はゆっくりと仁美に顔を近付けた。
いつも直前で止まるその距離を突き進んで……。
仁美の唇に無惨の唇が触れた。
仁美は口付けが何か分かっていた。
……ずっと、彼に触れたいと思っていた。
だけど、無惨は人間が嫌いで、自分が触れるのも嫌だと感じると思っていた。
それが彼から触れてきた唇が嬉しくて涙が出た。
「…旦那様…。」
仁美がそう呟き無惨にすり寄ると…。
無惨は仁美が流した涙を唇で拭った。
思った通り、甘い味が口の中に広がった。
その日無惨は初めて仁美の布団の中に入り、夜になるまで寝ている仁美の側にいた。