第5章 傲岸不遜の鬼
仁美が無惨を旦那様と言ったのはこの時が初めてだった。
無惨は希少な仁美に愛着を持っていた。
彼の感情は至ってシンプルで、自分が持った感情に疑問を持つ様な事はしない。
人間如きに愛着を……。などと、そんな人間らしい感情すらない。
愛着を持てば大切にし、不要になれば捨てる。
それだけの事だった。
仁美はそれからも無惨の元で成長し、17歳になる頃には無惨の影響を受けて洋書や海外の言葉に興味を持つ様になった。
その頃には夜の数時間だけでなく、無惨は朝になり仁美が眠りに着くまで側に居る事もあった。
陽光が当たらない部屋の中で、布団の中でうつらうつらしている仁美を見ながら無惨は指で彼女の前髪を横に流した。
「……旦那様……。」
仁美は無惨がどんな姿でも旦那様と呼んでいた。
「……お前。旦那様と呼ぶ意味は分かっているのか?」
「……はい…自分の主を呼ぶ時に言います。」
仁美は眠気がくる目を何度かパチパチさせて無惨を見上げた。
そんな仁美に、無惨は笑みを浮かべて尋ねた。
「他の意味は?」