第5章 傲岸不遜の鬼
この時仁美は、自身の母親が自分とは違う生き物だと悟っていた。
そして定期的に現れる無惨の事も。
いつ会っても違う姿形。
しかし赤い目は変わらず仁美を見下ろしていた。
自分の母親や無惨の風貌から鬼を想像したとしてもおかしくない。
「私に鬼の事を聞くより、人間の事を聞いた方が早い。」
「……人間…。私は人間で、お母さんは鬼なんですか?」
「そうだ。人間とは低脳でよく繁殖し、時に私に刃向かい目障り極まりない。」
無惨が人間をよく思っていない事は、その短い言葉でよく分かった。
人間と鬼が共存出来ないこと…。
どんな書物を読んでも、鬼と人間は互いを殺し合う。
「…私も人間なんですよね…。」
「お前は人間だが……。」
無惨は手を伸ばして仁美の顎に触れた。
仁美の顔を上げさせると、顔を近付けて仁美を覗き込む。
仁美の体の中には無惨の細胞が変化して混じっている。
無惨は大きく目を見開いている仁美の瞳の奥を見た。
栗色の目の奥に少しだけ感じた自分と同じ細胞の色。