第1章 半々羽織
彼の深い青い目の中に、仁美の姿が映される。
義勇がゆっくりと顔を近付けて、仁美の唇に軽く触れた。
唇が触れたのは一瞬で、少し唇が離れると次はもう少し深く唇を押し付けた。
おかしな事に義勇は今自分が仁美に口付けをしているなどと意識はしていなかった。
彼女の唇に触れるのが当たり前の様に、何度も何度も口付けを繰り返す。
「…義勇様…。」
仁美が義勇の名前を呼び、その声を聞いてやっと自分が今何をしているのか理解した。
「…仁美…。もう少し…。」
仁美に同意を得ないで、口付けをするなんて道理に反している事は分かっていた。
だけど仁美が義勇を拒否しなかった。
それがどんな理由でもたったそれだけの事で、義勇はその行為を止める事は出来なかった。
初めて女性にこんな感情を持って、戸惑ったのは自分自身だ。
しかし、それはほんの一瞬で、今は仁美の柔らかい唇を堪能している自分に体が熱くなるのを感じた。