第5章 傲岸不遜の鬼
鬼が目視で知り得る人間の細胞までの情報と違い、仁美の血はただの人間の血だった。
血は人間だと証明しているが、彼は仁美に感じた自分の直感を信じる事にした。
そしてまた何年かして、無惨は再び仁美の元を訪れた。
この時には母親の鬼は仁美を食い殺さないと確信していた。
だからまだ生きている仁美には驚かなかったが、3歳の頃と同じ様に自分を見上げる仁美に違和感を覚えた。
「この女児は喋れないのか?」
「………………。」
どうやら母親の鬼は知能は少なく、仁美に対して言葉を掛ける事をしていなかった様だ。
本能的に無惨の言葉に従い、仁美を育てていただけだった。
これでは敢えて生かして経過を見ている意味が無かった。
無惨は無意味な事に時間を費やす事を嫌う。
いつもなら、ここで母親の鬼と仁美を同時に殺していただろう。
しかし、この時の彼の行動は違った。
暗い部屋の中を歩き、仁美の前まで来ると膝をつき、仁美の目線まで体を屈めた。