第5章 傲岸不遜の鬼
そして暫くはその赤子の事など思い出しもしなかった。
ふと思い返した時には、3年の年月が経っていた。
その赤子が死んだのか気にしたのも、また気まぐれだった。
3年ぶりに赤子の元に訪れると、予想とは反して赤子は生きていた。
母親の鬼は人肉を求めて小屋の中には居なかった。
齢3歳ほどの女児は暗い家の中で1人で座っていた。
身なりは…悪く無かった。
女児が育つだけの食事も与えている様だった。
部屋の中に入ってくる赤い目を動きもしないでジッと見ていた。
赤子の腕に注射針を刺して採血をした。
針に驚く事も痛みを訴える事もしなかった。
女児の血が針から垂れた時にまた甘い匂いがした。
その香りは産まれ落ちた時よりも強く稀血だと言わざるを得なかった。
稀血はこんな匂いがするだろうか…。
そして何より人間の気配の中に……人間では無い何かの気配を感じた。
しかし、それは鬼と呼ぶには弱く、他の動物の様に儚い生命だった。
鬼から産まれた人間でないなにか……。
彼は仁美の血を持ち帰り、その血を調べる事にした。