第5章 傲岸不遜の鬼
オギャー。オギャー…。
その夜は月が赤く染まっていた。
臨月の女に血を分けた。
通常胎児はその変化に対応出来ずに腹の中で死ぬか、死産するのが関の山だった。
しかしせっかく産まれ落ちた赤子の未来は結局死が待っている。
女は鬼となり、そのまま子を産み落とした。
産み落とした我が子を食らおうとするのも鬼化した飢餓からだ。
鬼となった者達がどう生きようと気にした事は無い。
強い鬼になりそうなら、血を与え、そうでなければ放牧させる。
どうせ細胞に私の血がある限り、鬼達は自我はあれど何も出来ないのは目に見えている。
「……待て……。」
赤子を食らおうとした鬼を止めたのはその小さな違和感に気が付いたからだ。
赤子から甘い匂いがした。
稀血か?いや…何か分からない。
「食いたいなら他を食え。その赤子はお前が育てろ。」
鬼になった女は赤子から目を離すと、側にあった旦那の死体を捕食した。
その光景を見ながら壊したドアから外に出た。
鬼は共食いすらする。
あの赤子の命はそう長くは続かないだろう。
食われたのなら……。
それはそれでどうでもいい。