第4章 赫き炎刀
仁美は傷が治らない様にメスを突き刺したまま杏寿郎の口元に運んだ。
甘い…。
甘い痺れる匂いと血の味だった。
杏寿郎の体が燃える様に熱くなり、痛みが酷かった患部はどんどん通常の感覚を取り戻していく。
血が止まり、皮膚が再生する細部まで感じる様だった。
自分の細胞が湧き立つ様に体中を巡っている感覚。
傷は癒えるのに心臓の鼓動は激しく……。
強烈な熱は下半身へと集中していく。
血色の無かった顔色が紅潮して、とうとう杏寿郎の手が上がり仁美の両腕を掴んだ。
「……………………。」
荒い呼吸を繰り返して紅潮した顔でこちらを見る杏寿郎に、仁美はスッとメスを抜いた。
「……傷…。」
杏寿郎はすぐに仁美の手を取り、彼女の傷を心配した。
「……………。」
仁美の手のひらの傷は、杏寿郎の前でみるみる塞がっていく。
その光景に杏寿郎は顔を上げて仁美を見た。
杏寿郎を見下ろしている仁美の目は紅梅色のまま、瞳孔は猫の様に縦長になっている。
………彼女はこんな目をしていただろうか……。