第1章 半々羽織
それ以上は何も聞かなかった。
仁美も話すつもりも無かったから、ただ黙って義勇に抱かれていた。
「…義勇様、離して下さい。」
仁美の声は聞こえたが、義勇はその手を緩めなかった。
「……辛いか?」
「…そうですね…辛く無かったと言ったら嘘になります。怖くて震える事も毎晩です。」
そう言って仁美は義勇の背中に手を回した。
仁美の手が背中に触れると、義勇はさらに強く仁美を抱き締めた。
「だから、強い人が夜側に居ると安心します。」
誰も助けてくれなかったから。
毎晩絶望の中で生きてきた。
だけど、鬼を倒せる人間が存在すると初めて知った。
不死川実弥は本当に強かった。
その時仁美に纏わりついてた鬼は下限だった。
彼はその鬼を殺した事で風柱になった。
仁美は鬼滅隊と言う組織がある事を初めて知った。
守ってもらえる。
やっと鬼から解放された瞬間だった。
「私は貴方が強いからこうして抱かれているんです。一時の安心が欲しいから。」