第1章 記憶 ※暴力表現有
「そう、本当の名前とは別で呼び方を決めるの。なんて呼ぼうかなぁ。目の色からとって、すみれ?でもすみれは女の子みたいね。」
真剣な顔で僕のあだなとやらを考えてくれている。
ふと思いついた。そういえば、僕にもあだながある。
「…おばけ」
「え!?そんなのだめよ、あなたはお化けじゃないもの。」
解決するかと思ったのに、それ…メイはひどく悲しそうな顔をした。
その顔は、いやだ。
「…じゃあ、くもつ」
「くもつ?くもつって何かしら?」
「みんなそうよぶ」
「そういうあだながあるのね。わたしもそう呼ぼうかな。くもつ。…うーん…なんかしっくりこないわ。」
難しい顔で、眉間にしわを寄せて、一生懸命考えているその様子がなんだかおかしかった。
しばらく考え込んでいたが、結局あだなが決まらぬまま、
「もうそろそろ帰らないとバレちゃう」
と言ってメイは立ち上がった。
「小指、出せる?」
格子を握ったまま小指だけ立ててみる。
するとメイは自身の小指を僕の小指に添えた。
「また来るね。」
やくそくよ、と一言添えて、去っていく。
今のはなんの儀式だったんだろう。
残された感触が少しずつ消えていくまで、僕はじっと小指を見つめていた。