第3章 新生活
「メイ!見ろ!大きな鳥が飛んでおる!」
「しー!あれは飛行機よ、またいつか乗りましょうね」
「おい貴様!今我を押したな?」
「こら!混んでるから仕方ないでしょ?すみません、この子電車が初めてで…」
…案の定である。
しかも曜日のせいなのか時間帯のせいなのか、すし詰めとまでは言わないけど中々の混み具合で座ることができず、あまり人が触れないように窓際に立ってもらったものの、揺れで時々ぶつかられてしまったり、かと思えば窓の外のものを見てはしゃいで大きな声を出してしまう。
私はなるべく他の人が邪視を押したりぶつかったりしないよう、ガードするような形で手すりに掴まって立った。
もし怒って暴れでもしたら安易に死人が出てしまう。
見通しが甘かった。一旦帰って車を借りてきたら良かったなぁ…今度からそうしよう。
帰りも頑張らなきゃ…
数駅後、海の最寄り駅にようやく到着した。ここはあまり混んでいない様子。
時間にしたら大したことはないのだけど、気を張っていたのでとても長く感じた。
邪視の手を引いて降り、解放感で思わず深呼吸する。
「ふー、良かったぁ無事に着いて。大丈夫だった?酔ったりしてない?」
「何ともないじゃあ、電車というのは速いんじゃのお」
「そうね…帰りは空いていると良いわね。」
ケロッとした様子の邪視に安堵しながら、海に向かって歩き出す。
潮の匂いと独特の強い風を浴びると、日常から離れた実感で思わずため息が漏れる。
やがて波の音が近付き、林を抜けると眼下に砂浜と海が広がった。
「綺麗ね…邪視、これが海よ。どう?」
「大きい水たまりじゃあ!どこまで広がっておるんじゃ?」
「どこまでもずーっと広がってるのよ。ちょっと足だけ入ってみる?」
私が問いかけると、海に向かって一目散に駆けていく邪視。
しかし、当然ながら砂浜の感触も初めてで、ザクザクと足が埋まるような感覚が面白いらしく、そこいらを走り回っている。
こんな足場でもかなりのスピードで走れているのは流石といったところだろうか。
「すごいわね、普通砂浜はそんな速さで走れないのよ。私なんて歩くので精一杯。」
「じゃははは!軟弱じゃのおお主は!」
来るのは大変だったけど、楽しそうな邪視の様子に私はホッとした。連れてきてよかった。