第3章 新生活
土曜日の朝七時半。私は普段より一時間早く起きた。鏡台の前に座って化粧水を叩き込む。
今日は特別だ。あの子と初めて外に出掛ける日だもの。
服はどうしようかしら?
スカート丈は短すぎても長すぎてもダメよね。大学生だし、あまり子供っぽすぎる格好は避けたい。
結局クローゼットを開けて三十分も悩んだ挙句、ベージュのシフォントップスにアイボリーのフレアスカートを選んだ。髪はポニーテールにしてシュシュをつければそれなりになるはず。
朝食を済ませて家を出る前にスマホをチェックした。昨晩遅くジジくんから届いたメッセージには「邪視が楽しみにしすぎて勝手に出てこようとするー!明日の朝家の前で待ってるね!」と書かれていた。
それだけで嬉しさが溢れてつい口元が緩んでしまう。
「私も楽しみよ、明日よろしくね」と返信してバッグに入れると引っ越したばかりのジジくんのお家へ向かった。今日はいい天気でよかった。
ジジくんのお家に着くと、連絡の通り玄関先でジジくんは待ってくれていた。
私に気付くと今日の晴れ模様によく似合う笑顔で駆け寄ってくる。
「おっはよー!今日もキャワウィーネ!!ポニーテール新鮮!」
「お待たせ。ありがとうね、貴重な週末を邪視にあげることにしてくれて…」
「気にしなくていいよ!メイさんの方こそ邪視と仲良くしてくれてありがとう。その…この前のこともモモに聞いたけど、すごいベッタリだったって。生前誰にも甘えられなかった分これから楽しく過ごしてもらえたらオレも嬉しい。」
私はジジくんの言葉に感動した。
まだ遊びたい盛りの高校生が週末を快く貸してくれるだけでもありがたいのに、邪視のことを大事に思っていることが伝わって胸が熱くなった。
「こんなこと言うのは失礼かもしれないけど…邪視が取り憑いたのがジジくんでよかったってちょっと思っちゃった。きっと彼もあなたの温かさに惹かれたのね。」
「あはは、大げさだなぁ。じゃあ、そろそろ邪視に変わるね。楽しんで!」
「ありがとう、また明日ね。」
挨拶を交わすと、ジジくんの赤髪はあっという間に白くなり、顔に黒い模様が浮かび上がった。
「ああ…ようやく土曜日か。待ちくたびれた。」
「ふふ、私もよ。邪視、おはよう。」
「…おはよう。今日は何をするんじゃ?」
「そうね…そういえば邪視は朝ごはん食べた?」
