第2章 ver.一ノ瀬トキヤ 8/6
余りの近さに、自身の顔を隠すようにぬいを差し出す。
「...触ってみても?」
「どどどどどどどうぞ!!(近い近い近い」
ふむ、と、トキヤが、トキヤのぬいぐるみを見て、首を傾げている。
このぬいちゃんは、彼の誕生日を意識して、衣装や小物をつけている特別使用だ。裁縫が苦手な自分が、毎晩せっせと縫い合わせて作ったものだ。
お陰で、他に誕生日祝いらしいことができなかったのだけれど。
「....私は、こんな顔をしているんですね」
ふふっ、そう言って、彼は笑った。
あぁ、宝物が宝物をみて笑ってくれてる。写真撮りたい。一生の宝物にするのに。
大事なものを、ありがとうございました。と、丁寧に返却される私のトキヤぬい。むしろありがとうございましたとお礼を言うもんなら、また首を傾げられたが、あぁ、いつまでも女性を床に座らせて置く訳にはいきませんね。と、机とテーブルに案内された。
彼が椅子を引いて、座らせて貰う。
そう、まるで王子様みたいで、ほんとに絵になる人だ。
「紅茶はお好きですか?」
「ななななんでも大丈夫です!!」
「では、オススメのハーブティーはいかがでしょうか」
そういって、落ち着く香りが漂ってきた。
目の前に出されたカップに、湯気が立っている。夏でも、身体を冷やさないようにしている彼らしい。
握りしめたマイクを机に置かせて貰って、頂きます、と一口飲めば、緊張と相まって、なんとも言えないお味なのがバレないように、無言で飲み進めた。あ、でも、慣れたらいけそう。
「....落ち着きましたか?」
「あ、は、はい...すいません、何が何だか...」
「いえ、先程も言ったように、ファンの方を巻き込んでしまったようで、本当に申し訳ありません」
「めめ、滅相もない!!むしろご褒美というかなんと言うか...ゴニョゴニョ」
「それで、重ねて失礼なのですが....少し、お話を聞かせて頂けないでしょうか」
「え!わ、私で良ければ...!」
ありがとうございます。
そう言って、彼は微笑む。推しの至近距離の笑顔を食らって生きてる私、偉い。仕事、頑張って良かった。今なら仕事の尻拭いさせてきたクソ上司も許せそうだ。