第2章 ver.一ノ瀬トキヤ 8/6
それは推しの生誕祝いを、カラオケにて発散している時だった。
せっかくの推しの誕生日だと言うのに、仕事は山盛り、ご飯も食べれず、残業だらけの職場に腹を立てても腹は減る。
せめて日付が変わる前に...と、今日は持ち歩いていた、彼のぬいぐるみを持って、カラオケで彼の歌を歌いまくっている時だった。
音楽が途切れ、真っ暗になったかと思えば、急に明るくなり、思わず目を閉じた。うわっ!?と言う声が聞こえて、恐る恐る目を開ければ、そこはさっきまで居たカラオケ店でなく、どこか見覚えのある部屋の一室。
そして、見覚えどころじゃない、整った顔に、眉間の皺、切れ長の目。ピンと横に跳ねたその髪と、何より、忘れるわけがない、その声。
「い、い、いちのせ、ト、トキヤ...さん?」
「・・・一ノ瀬トキヤです」
驚いた顔の、一ノ瀬トキヤ、本人が居た。
う、うおおお!生の『一ノ瀬トキヤ』台詞キタコレーー!
と、感動に震えるが、何故こんなことになっているのか頭は?マークだらけだ。彼は読書をしていたのか、かなりラフな格好にソファに座って足を組んでいた様だ。
かなり驚いていたみたいだが、挟まっている手紙に気が付き、暫く無言だったが、それを読み終えて、ふぅ。とため息をついた。
「全く...早乙女さんには困ったものですね...」
「シャ、シャイニーさん.....?」
「どうやら、貴方が突然現れたのは、彼の仕業みたいで」
「は、はぁ....」
「時間が経てば元に戻りますから。巻き込んでしまい、申し訳ありません」
「い、いえ!そそそそそんな!」
何に巻き込まれてるのかは知らないが、彼に会えるならこんなご褒美は無い。さて、どうしたものか...と、腕を組んで考え込む彼の様子は、ほんとに目の前で、動いて、息をしていて、多分触れられる距離にいて、心臓がバクバクする。
手元にあるマイクとぬいごと、自身の両手を握りしめた。
「おや....それは....」
「あ!え、えっと...その...」
「私、ですか?」
こくこくと、頷くと、彼は顔を近づけてぬいぐるみを見る。