第1章 愛して欲しい
ほんと最悪。
ヒトにモノ頼みすぎだろって話。
いきなり明日までに集計って。
17時に言うことなわけ?
お陰でどっぷり真っ暗よ。
「ほんと最悪」
スマホを取り出せば、通知の嵐。
相手は言わずもがな。
余計気参るわ。
どーせGPSで居場所なんてわかってるくせに。
…………ほら。
ゼミ棟を後にして、真っ暗な中ひとり帰路に着けば。
ゆっくりと後ろから、黒塗りの車改め真っ白なワンボックスが、横に並んだ。
いや。
普通に怖いわ。
なんなん、もう。
ゆっくりと空いた助手席の窓に一瞬身体が強張って。
無意識に早足になる。
「ごめん莉央ちゃん、怖がらせるつもりとかなくて。怖いよねごめんね」
「…………車よりもあたしはおまえが怖い」
いつからいたの。
ちゃんと寝た?
ご飯は?
食べた?
いつから。
いつからあたしを張ってたの。
「今日は寒いよ?莉央ちゃんこんな夜更けにひとりで電車乗るの?ねぇここ、ここなら空いてるよ莉央ちゃん。お願いだから車乗ってよ」
夜更けて。
22時すぎたばっかだし。
「…………ご飯」
「え」
「一緒にご飯食べるなら、乗る」
「う…」
あからさまに嬉しそうに。
「うんっっ!!食べる!!莉央ちゃんっ」
もげないのが不思議なくらいに首を大きく振って。
ついでに耳と尻尾をピンとたてながら。
でっかいわんこの大袈裟な愛情表現が。
実のところ嫌いじゃない。
から。
困る。