第3章 自爆
「あーあ。捕まっちゃったね莉央ちゃん。」
俺なんかに捕食されちゃうなんて。
かわいそう。
そう簡単に逃す気ないよ。
いつからだろう。
こんな気持ちになったのは。
欲が、おっきくなったのは。
ああそうだ。
あの、痴漢だ。
あの日も莉央ちゃん、俺への警戒心丸出しのまま、俺をスルーしてひとり電車に乗ったよね。
あからさまな警戒心が余計に楽しくてついつい怒らせちゃうんだよな。
あの日はすごく混んでて。
莉央ちゃんのすぐ近くに俺がいたことすら当の本人、気付いてなくて。
俺に気付いた時の怒った顔が見たくてワクワクしながら莉央ちゃんの後ろ姿を見てた。
「?」
様子。
なんだ?
なんか。
「っ」
う、そだろまさか。
動きにくい電車の中、強引に身体を移動させれば。
キツキツな車内を利用したハエが、莉央ちゃんのおしりで勝手にオナニーしてた。
密着して。
擦って。
汚い手が、莉央ちゃんの背中を撫でて。
頭の中でプツンて音がした。
スーツのポケットに入ってる小型のナイフをハエの手の甲に突き刺し抜いて。
あたりに血が、舞う。
と同時に上がる悲鳴。
莉央ちゃんが、悲鳴に反応して振り返れば。
やっと、目が合う。
だけど俺を見つけたその目は怒りじゃなくて。
怯え。
怯え?
莉央ちゃんの前。
もう一匹、ハエがいた。
いつまでも汚い手を離さないハエの腕を反対方向へと力任せに押さえつければ。
ボキボキボキ、って。
鈍い音がする。
構わずさらに捻り上げ、右腕を真上にあげた。
今すぐにでもそこでうずくまるハエと一緒に次の駅で降りて殺してやりたい衝動を、おさえ。
「大丈夫?」
真っ青な顔して震える莉央ちゃんへと、声をかけた。