第3章 自爆
「…………夢」
まじか。
夢。
夢見るくらい寝たのなんていつぶりだっけ。
視線を移動した先には。
青い病衣に括られた右手の白い包帯が一際目立つ、女の子が。
あどけない顔して眠ってた。
「ごめんね、莉央ちゃん」
親指と人差し指が思いのほか深傷で、何針か縫ったって聞いた。
盛られた薬も特に証拠も害も残らない所謂レイプドラッグ的なもので、特に大きな問題はない。
時間も時間だし、右手はまあまあそれなりに重傷負ってるしで、念のため今日検査して、問題なければ帰っていいみたいだった。
あの時。
『柳瀬!!』
たぶんあの時。
莉央ちゃんの声が聞こえてこなかったら。
莉央ちゃんが、あのまま意識なくしてたなら。
きっと、いや絶対。
俺はあいつを殺してた。
「…………ほんと、かっこよすぎでしょ」
あーあ。
ほんとは。
消えるつもりだったのに。
組からも抜けて、莉央ちゃんからも離れて。
限界だったんだ。
莉央ちゃんを側で見てれば見てるほど、莉央ちゃんが欲しくてたまらない。
日に日に妄想が膨らんで。
何度も何度も莉央ちゃんを組み敷いた。
言葉に出来ないくらい酷いこともした。
もう。
現実なのか妄想なのか境目すら曖昧で。
だから。
また妄想かと、思って。
酷いことした。
大事にしたいのに。
同じくらいに何もかも壊してめちゃくちゃにして、堕としたい。
俺と同じ場所まで堕ちて欲しい。
もっといっぱい声が聞きたいのに。
押さえつけて声すら奪ってしまいたい。
一般的なこの感情の名前なんて知らない。
知らなくていい。
ただ。
莉央ちゃんだけは守りたくて。
俺から、守りたくて。
壊してしまう前に消えようと思った。
のに。
『お嬢がまだ帰って来ない。スマホも部屋に忘れたみたいで。なぁ雅、お前ならお嬢の居場所わかるだろ?』