第3章 自爆
「…………っせ」
小さな声で。
震える声で。
だけど確かに見えたのは俺に対する安堵感。
俺を見て。
莉央ちゃんが俺に、安心してる。
いつも警戒心丸出しで気ぃ張って。
強がりも虚勢も見せることなくただただ女の子みたいに怯えて。
俺を見る莉央ちゃんを見たら。
せっかく捕まえたハエなんかどうでも良くなって。
タイミング良く開いたドアの向こうに消えたハエなんかほんとどうでもいい。
固まったまま動かない莉央ちゃんを抱き起こし、電車を降りた。
「大丈夫?」
こうしてみると、普通の女の子。
ヤクザの家に生まれたからっていつも気ぃ張って。
中学の時もいつもひとり、ウダウダいう外野なんか気にしない顔して、何言われても感情を面になんて出さない。
ヒトに頼らず生きていける。
そんなこと、思ってんだろうなって。
そんなの全部強がりだって、知ってたのに。
怯えてるの必死で隠そうと耐えてる姿が、素直にかわいいって思った。
自分が公衆で、性的対象とされたことへの嫌悪、恐怖。
莉央ちゃんは女の子で、その感情はきっと当たり前のことなのに。
それを、出す術を知らないんだな、この子は。
「ねぇ、莉央ちゃん、明日から電車1人で乗らないで」
俺の知らないところで。
知らない場所で。
そんな顔誰にも見せないで。
俺以外に隙なんて見せないで。
あんなハエどもと、あんなに密着して同じ空間にいることが耐えられない。
同じ空気を吸うことさえあんなやつらには許されない。
莉央ちゃんの『女』を見るのは。
俺だけで十分。
十分なんだよ。
莉央ちゃん。