第1章 愛して欲しい
あれはちょうど1ヶ月前。
元々混む路線、時間な上ジメジメと梅雨時期も重なって。
満員電車は身動きすら取れない状況だった。
そんな好機に奴らは群れをなして襲ってくる。
ひとりは後ろからお尻へと汚いモノを布越しに押し付け。
ひとりは前から際どく胸へと手をかける。
あからさますぎて。
声すら出す気にもなれなかった時。
車内に血が飛び散った。
小さく呻きながら前の男が離れていって。
後ろの男が、悲鳴をあげた。
「大丈夫?」
「…………な、せ」
右手を捻り上げて上に伸ばすと、柳瀬はあたしへと視線を向けて。
にこりといつものように、笑った。
何故だかそれが無性に安心できた、なんて思ったことはもちろん秘密で。
でもだからこそ。
柳瀬はあたしをひとりにさせてくれない。
わかってる。
わかってるんだ。
柳瀬の気持ちは痛いくらいに。
ほんとはあの場であの2人に切り掛かってもおかしくないくらい、めちゃくちゃに殴ってしまいたいくらいの衝動をちゃんと自制して。
からの。
『大丈夫?』
だったことも。
こいつは。
この男は。
あたしのことになると理性がおかしな方向へとぶっ飛ぶ。