第1章 愛して欲しい
「莉央ちゃん!!今からガッコ?待って待って今俺、車出す!1分、いや10秒待って!!」
玄関をカラカラカラって開けた途端に現れたあたしよりも一回りほど体格のいいイケメンが、何やら言うだけ言ったと思えば。
ばびゅん!!て勢いよく消えてった。
「…………」
「…………お嬢、あれ、待たなくていいんです?」
「待つなんて言った覚えないし」
「いやまぁ、でもたぶん」
「りっおっちゃーん!!」
きっかり10秒。
言うだけ言って消えたイケメンは、黒塗り車の窓から体を乗り出し手を振った。
のを。
スルーして歩き出す。
「莉央ちゃん莉央ちゃん待って。ほんと待ってってば」
車を乗り捨てちゃっかり隣を陣取るスーツの男に一瞬だけ視線を向ければ。
それに気付いた男が、にっこり嬉しそうに満面の笑みを浮かべる。
乗り捨てられた車の向こうからは、たぶんこの男に対する苦情の嵐。
ため息ついて。
足を止めた。
「…………近所迷惑だから車戻して来て」
にっこりしながら、何やら後ろへと投げられたモノ。
車のキー。
それを回収するみんなに同情しつつ。
「送るだけだから。大学着いたらすぐ帰って。待ってなくていいから。いい?」
「はーい」
「命令よ。そして寝なさい」
「…………善処するよ」
「今まで仕事してたんでしょ、いいから寝なさい」
「…………」
「なら一人で行く。着いてこないで」
「莉央ちゃんずるい。逆らえないじゃんそれ」
「言ったでしょ、命令だって」
「…………ならお願い、ひとりで行くなんて言わないで。車が嫌ならせめて送らせて。ひとりで電車になんか乗らないで」
「…………」
ぐすぐす泣きながら後ろを着いてくるこの男。
柳瀬 雅。
これでも25歳。
職業ヤクザ。
こいつが電車を毛嫌いする理由。
痴漢、だ。