第2章 情緒
橘花(たちばな)組第6代目組長、兼、双方会会長、の、孫娘。
橘花莉央。
23歳。
生まれた時から変わったあたしの立ち位置は、組長娘から、会長の孫娘となったこと。
元々組長は、父だった。
父は20年前。
あたしにとっての叔父である弟に、殺された。
所謂跡目争い的な、やつ。
母も巻き添えになり。
いなくなった。
それから祖父が、あいた組のトップの座を引き継いだんだ。
柳瀬と会ったのは。
5年前。
柳瀬が所謂自分の身体を売り物にしてた、頃。
突然全身血まみれの状態で目の前に現れた。
やっぱり無気力で。
死んだような目をしてて。
生きる気力なんてない、そんな顔して。
あたしにとってはおじいちゃん同様家族、な彼らにまさしく袋叩きされてるところに、『たまたま』、遭遇した。
たまたまなわけない。
あれはきっと必然だった。
柳瀬と再会したのも。
助けたのも。
「…………っ、ああ————っっ!!くそ!!」
思い切り打ちつけた右手が、柱と共鳴してジンジン痺れた。
「ヤス!!ヤスお願いがあるの!!」
柳瀬にとっての、この組で兄貴って立場でもある彼なら。
知らないはずない。
「なんです?」
先程いたキッチンから一歩も動かずに、皿洗いなんか呑気にやっちゎってるイカつい図体のおじさんのエプロン姿が違和感半端ないけど。
まぁ、いいや。
いつもヤスの作るご飯は美味しいしね。
「柳瀬のところに連れてって」
「は?」
「連れてって。」
皿洗いしてる手を止めて、ついでに水道まで止めてくれちゃって。
ヤスが、振り返る。
「おまえなら知らないはずないもの。連れてって。」
「…………」
「今すぐ」
「…………いや、やめた方がいいと、思います、よ」
なんでそんなに泳がせんのよ。
視線浮きまくりじゃない。