第2章 情緒
にこりと振り撒いていた笑顔を封印して。
一歩。
距離が縮まる。
無表情なままに。
柳瀬の右手が首へと伸びた。
「あんたが欲しいんだって。手に入んねんなら、命なんていらねんだわ」
「く…………っ」
首。
掴まれて。
昨日の出来事が脳内ブラバする。
こ、の。
バカ力!!
苦しいんだよっ。
すぐに離された右手。
だけど。
苦しさに喉から嗚咽が漏れて。
咳が止まらない。
座り込んだあたしの背中をさすりながら。
「大丈夫?」
なんて。
心配そうに声をかける柳瀬に心底腹が立つ。
「今日はゆっくり休んでね、莉央ちゃん」
にこりといつもの笑顔振り撒いて。
柳瀬が背を向ける。
「柳瀬!」
一瞬ピタリと静止、して。
「絶対殺すから!!絶対許さない」
「うん」
振り返りもせずに一言。
「楽しみにしてる」
柳瀬はそのまま部屋を出て行った。
「っ」
涙。
柳瀬のいなくなった部屋で、勝手に溢れる涙を拭いながら。
自分の身体を抱きしめた。
怖かった。
柳瀬が。
男、が。
初めて怖いと思った。
ヤクザの家に生まれたせいで子供の頃から同級生には一歩引かれて。
同級生の男の子たちはあたしをどこか怖がって近づいてくることはなかったし。
喧嘩も負けない自信ある。
痴漢されたからってビクビク怯えて涙を流せるほど可愛くなんてないし。
まして怖いなんて思ったことない。
思ったことなんてないのに。
初めて。
怖いと思った。
柳瀬に、初めて『男』を見た。