第9章 誕生日
「莉央ちゃん…………」
あ。
「何その解釈…………。ポエマーかよ。糖尿病なっちゃうよ莉央ちゃん」
「…………柳瀬」
少なくても気分悪くなっては、なさそう?
「柳瀬が生きててくれて、良かった」
「莉央ちゃん、好き」
「あはは、あたしもー」
「軽いよ莉央ちゃん」
「好きに重いも軽いもないんです」
「あるよ」
「誰がはかんのそれ。自分でしょ、そんなの匙加減じゃん」
「それでも、あるの」
「もういいよ、それで。あたしお腹すいた」
「…………そーいえば、すいたよね」
「!??」
ベンチの上、座ったままの柳瀬に抱きつかれたままだった身体をベリっと引き剥がして。
柳瀬を立ったまま見下ろした。
「お腹すいた?」
「すいた」
「何それ、なんか食べたいってこと?」
「…………あー…………うん、そうだね食べたい」
「何食べたい?」
「…………オムライス?」
「それあたしの好きなやつじゃん」
「莉央ちゃんの好物が俺の好きなものだもん」
笑いながらそう言って笑う柳瀬は、嬉しそうで。
無意識かな。
さっき開けたピアスを柳瀬の指先が撫でていく。
それがすごくくすぐったくて、嬉しかった。
開けてよかった。
心からそう思った。
「俺ね、今までほんと味とか全然わかんなくて。腹に入りゃみんな一緒、くらいにしか思ってなかったんだけどさ。莉央ちゃんすっごく美味そうに食うじゃん?なんか俺までうまく感じるっつーか、ああうまいな、って思えるようになった。莉央ちゃんのおかげ」
「…………」
珍しいな。
柳瀬が自分のこと話すの。
だから。
思わず聞き入っちゃっただけなんだけど。
「なんつって、今から飯食う時に重いね、俺」
あたしが沈黙したことで柳瀬に変な不安を与えたことも事実で。
ネガティブな思考、ってだけじゃないんだろうな。
柳瀬のそれは。
きっとやっぱり、昔からの自己防衛。