第9章 誕生日
公園のベンチの上。
柳瀬の耳へと手を伸ばす。
「どれでもいい。柳瀬のものが欲しい」
「…………莉央ちゃん」
「くれる?」
「くれる!!俺のなんでもあげる!あげるから、そんな理由で傷なんて付けないで莉央ちゃん」
…………バレてる。
「開けたかったのは、ほんとだもん。柳瀬に、柳瀬の手でずっと残る傷(印)をつけて欲しかったの。柳瀬の持ってるもの、あたしに刻みたかったの。それだけ」
「莉央ちゃん」
「…………雅くん、ここ公園。そしてごめん、熱いし」
真夏の公園。
さすがに遊んでるお子さまたちはいなくても、そこら中にキッチンカーなりいるから。
何より熱い。
くっつかれると。
「…………雅くんは、なんであけたのピアス」
「俺?」
あ。
これ、聞いちゃ駄目なやつだった。
フラッシュバックする時の、怖い顔。
「柳瀬、お腹空いたしご飯行こ」
慌ててベンチから立ち上がって話題を逸らすと。
柳瀬の手が、右手を掴んだ。
「大丈夫だよ莉央ちゃん」
「え」
「気使わなくて」
あ。
駄目だなやっぱりあたし。
「…………生きてるって、感じたくて、あけたの」
「…………ぁ、」
「痛みもなんも感じなくなったとき、開けて、痛いって、やべぇ生きてんじゃんて、感じるため」
柳瀬の、根底にある闇。
手を伸ばしていいものか、悩む。
あたしはまた柳瀬の闇を強引にこじ開けた?
引きずり出した?
「…………柳瀬はやっぱ、生きたいんだね」
正解がわからない。
柳瀬の望む答えが導き出せない。
「ここに開いた穴で壊れないように、耳を代わりにしたんだね。ピアスはずっと、柳瀬の勲章なんだ」
「何…………」
「心臓に穴を開けないためにピアスを開けたってことだよね、それ。えらいえらい。ちゃんと守る術、持ってるじゃん」
柳瀬の耳に開いた穴。
左にみっつ、右にふたつ。
脳が痛みを遮断しちゃうくらいの辛いこと。
ピアスを開けることでつけてきた折り合い、けじめ。
やっぱりピアスは柳瀬の勲章だ。
「…………柳瀬のピアス、つけれんの楽しみすぎるね」