第9章 誕生日
朝ご飯なんてないのが当たり前だった。
食事らしい食事といえば、給食の食事だけ。
夜は無防備で寝てたら、帰宅したあいつに理不尽に殴られる。
少しでも身体に受けるダメージ減らすためには、夜起きてるしかなかった。
あいつが寝る朝方から登校するまでが、唯一の睡眠時間で。
もうそんな生活が定着しちゃったから今更変えられない。
「…………あたしは、柳瀬が生まれてきてくれて嬉しい」
「ん。何、急に」
「誕生日、おめでとう柳瀬」
「…………」
『誕生日、おめでとう柳瀬』
あれ。
今。
なんか。
なんか。
「柳瀬?」
「…………莉央ちゃん、誕生日おめでとう」
「ありがとう」
なんか一瞬思い出した気がした。
なんだっけ。
前にもあった?
こんなこと。
「莉央ちゃん、今日何しようか」
「え」
あ。
これは。
絶対今やりたいこと頭に浮かんでるよねその顔。
「何したい?」
「…………映画みたい」
「映画?」
「あたし、映画って、映画館って、行ったことなくて」
あー。
そっか納得。
自分の立場を良く理解してる莉央ちゃんらしい。
『もしも』を、考えていけなかったわけだ。
密室。
暗闇。
人混み。
これだけ揃ってりゃそりゃね。
『何か』が、もし知らない誰かを巻き込んだら、とか。
いろいろ考えちゃうんだろうな、この子は。
「映画いいね。なんかみたいのある?」
「あのね、あのねあたしあれがいい!恐竜のやつとか、船のやつ!!」
いや。
恐竜のやつとか船のやつって。
かわいいかよ。
ほんと。
あーあ。
嬉しそうなこの顔。
ああもう。
食べちゃいたい。許されるなら食い散らかしたい。
「1時間後恐竜のやつ始まるよ、行く?」
「行く!!」
「決まりだね」