第9章 誕生日
早口で捲し立て、莉央ちゃんをチラリと上目遣いで見れば。
「うん」
莉央ちゃんが嬉しそうに微笑んで。
「ほんとそーゆーとこね、柳瀬」
「…………ごめん、なんか駄目だった、かな」
「違う逆」
「?」
「大好きって言ったの」
ああかわいいかわいいかわいい。
ぎゅ、て抱きつかれた瞬間香るシャンプーの匂いとか。
ふわって柔らかい身体とか。
ああほんともう、全部好き。
「中入ろうか莉央ちゃん、ご飯食べよ」
「柳瀬の作るの美味しいから好き」
「♡♡♡♡」
あんなに警戒心の塊だった莉央ちゃんがめっちゃ甘えてくる。
ほんともう。
幸せ。
「どっか行きたいとこある?」
「…………」
たぶんまたぐるぐるしてそうな顔。
基本的に朝はコーヒーだけで全然いいんだけどなぁ。
きっとさっきの気にしてるよな、これ。
『自分以外の価値観』ってやつ。
「柳瀬」
「ん」
「え」
莉央ちゃんの右手首ごと、掴んで。
フォークに突き刺さってるパンをそのままパクり、口の中へと放り込めば、口の中いっぱいに広がる甘い味。
「ん、甘」
親指で、口の端についたはちみつを拭って舐めた。
「朝からよくこんな甘いの食えんね」
いや、作ったの俺だけども。
莉央ちゃんフレンチトースト好きなんだもん。
そりゃ作るでしょ。
「…………」
「どした?莉央ちゃん」
「あ…………、うん」
一呼吸、置いて。
莉央ちゃんがフォークをカタン、て、置いた。
「柳瀬が言った、自分以外の価値観ってやつ、考えてた」
「ん」
「ごめん、あたし、押し付けてた?今も…………。柳瀬甘いの、好きじゃないのに」
「さっき言ったこと、気にさせたならごめんね莉央ちゃん。たぶんね、俺と莉央ちゃんて、全然違う人生歩んで来てて、して来たこと、してもらったこと、全然違うんだよ。俺にとっての当たり前ってたぶん莉央ちゃんの知る常識とは違うと思う。そうやって、常識外で生きてる人もいるってこと、知っといて欲しかっただけなんだ。きつい言い方してごめんね」