第1章 愛して欲しい
やっぱり表情ひとつ変えずに、右手そのままに、右胸へと伸ばされた舌先が、柳瀬の髪が、皮膚に触れて違う熱を連れてくる。
「ねぇ…………っ、冗談でしょ柳瀬」
「本気だよ」
「っ」
たっぷり唾液を纏わせて主張し始めた胸の突起が、空気に触れて。
柳瀬の吐いた冷たい吐息に反応する。
「だってほら」
「!!」
不意に触れられた下半身から、一気に熱が発散されて。
身体が。
意思とは関係なくびくん!て、大袈裟に震えた。
「まだ胸しか触ってないのにすごいよ?」
「うる、さ…………っ、おまえ、睡眠薬以外にも盛ったでしょ!!」
「…………ふーん」
考えるように目を細めて。
それが。
欲望を照らす光みたいに楽しそうで。
余計に腹立つ。
「思いたいなら、そう思えばいいよ」
なんでだろう。
なんであんなに警戒してたはずなのにあたしは、こいつの車に乗ったのか。
ふたりきりにならないようにずっと意識してきた。
警戒してきた。
だって。
柳瀬のあたしを見る目はおかしい。
壊れてる。
愛情、とは違う。
欲情とも違う。
どんな感情を向けられてるのかわかんないまま、柳瀬と再開して5年。
緩んでたのかもしれない。
柳瀬の上っ面に、見事に騙された。
油断した。
寝ない。
食べない。
あたしの前で柳瀬は人間らしい生活をしないから。
はたからみて心配するくらいに、柳瀬の行動は命を大事に出来てない。
銃を持った相手に丸腰で向かって行くし。
刺されたのも一度や二度じゃない。
まるで自分の身体なんてどうでもいいみたいに。
柳瀬の行動には情緒が伴ってない。
もし。
『それ』が全てこの日のための伏線だったとするならば。
あたしを油断させるための。
伏線だったとするならば。
きっともう。
5年も前からあたしはきっとこの蜘蛛の巣にはまってたのかもしれない。
「…………こわい?」