第8章 幸せ
「共依存、って知ってます先輩」
「…………」
ああ。
ワードエグぅ。
ど直球投げてきたこの子。
「だから別に…………」
「専門じゃないのでとやかく言うつもりは毛頭ありませんが、心理学、先輩もとってましたよね」
「とってました…………」
「じゃわかりますね、自己犠牲だけはしないでください」
「…………」
むぅ。
頬を膨らませて、頬杖ひとつ。
「そんなかわいい顔しても靡きません」
正面から隣へと移動して、すずが頬をつんつんしながら戯れはじめて。
余裕で靡いてんじゃん、なんてくだらないことを思った。
「ゆーてあたし先輩大好きなんですよ。先輩が自己犠牲のもと死を選ぶなんてことになればあたし柳瀬殺しますからね」
「…………」
目の前でタバコ吹かしてる黒いパーカー着た怖いお兄さんをチラッと見やりながら。
ため息ひとつ。
「すずのは冗談に聞こえないから怖い」
「冗談じゃないですもん」
「何、それ」
「柳瀬が一緒に死のうってゆーから、あたしも死ぬー、とかぬっるいこと言いそうでしょ先輩」
「…………いや、だからさっきからちょいちょいエグるよね」
「刺さるってことは先輩もわかってるってことじゃん」
「…………」
「そーゆーことですよ」
直球ストレート。
くるなぁ。
「まぁ、ちょっと羨ましいけどね」
「すず?」
「たぶん、あたしは絶対道連れにはしてもらえないから」
遠くを見て小さく呟いた言葉は、真正面にいる旦那さまへと届いたのか届いてないのか。
あたしにはわからないけど。
時々。
大人びた横顔を見せるすずは、そりゃ旦那ヤクザのお偉いさんですからね、いろいろ、考えることもあるんだろうな。
「すずにはあたしがいるじゃん」
旦那さまをチラリと見やりながらすずへと抱き付けば。
涼しい顔してコーヒーを召し上がる旦那さま。
「先輩」
ひしっと抱き合う茶番ひとつじゃ顔色も変えないとか。
これが貫禄ですか。
柳瀬にはないものだよなぁ。
なんて。
余計なことを考えた。