第8章 幸せ
「柳瀬」
「うん」
ぎゅう、て。
首に腕巻きつけて。
柳瀬をもういっかい抱きしめた。
「…………」
良かった。
ちゃんと、柳瀬だ。
思い出すと泣きそうになるから、気付かないように顔を埋めたのに。
「ごめんね」
柳瀬の腕が、あたしを隠すように抱きしめる。
「怖い思いさせたよね、莉央ちゃん」
こんなふうにちゃんと気付ける人なのに。
泣いてるの気付いてそれを気遣える人なのに。
ああだめだ。
フラバしたら柳瀬も引き込まれるかもしれない。
ちゃんとあたしのとこ戻ってきてくれた。
あたしの声、ちゃんと届くとこまで戻ってくれた。
それでいい。
何にも考えない。
「…………ちゃんと、引き戻せるのわかったからいい」
「ごめん俺たぶん頭おかしくて」
「…………それは、うん、知ってる」
ピタリと、頭を撫でる柳瀬の手が止まって顔を上げれば。
若干驚いてんのなんで。
こっちのが驚きすぎて涙止まったわ。
ええ。
まじ?
この人今までのヘラい発言の数々、忘れてんのかな。
こっちのが驚きなんですけど。
「好きだから殺していい?なんつって首絞めるやつ、正常なわけなくね?」
「…………もっともです」
…………これは、ぎゅうってしてるだけなんだよね?首絞められてるわけじゃないんだよね。
若干、苦しいですけど。
「…………それならなんで莉央ちゃん俺と付き合ってくれてるの?」
「…………」
気に入らない。
付き合ってくれてるって何。
柳瀬のタバコを取り出して。
口に咥えた。
「莉央ちゃんっ」
まただ。
なんで止めるの。
「タバコ、吸うの?」
「吸うよ。ムカついたから」
「ぇ、なんで…………」
「手離して、火つけらんない」
「や、やだ」
「…………」
「だって莉央ちゃんタバコ吸わないの知ってるよ、俺」
…………当たり前のように。
あたしのことならなんでも知ってる風に言うくせに。
なんであたしが腹立ててるのかはわからないんだね。