第8章 幸せ
「…………柳瀬」
「うん?」
「今、話は出来る?」
「…………出来る」
「じゃぁ、柳瀬の誤解解いておきたい」
「…………うん」
ベッドから降りて。
柳瀬が白いローブを纏いソファーへと座る。
タバコに火を付けると、ふ、と目を伏せた。
「…………ごめん」
「謝罪して欲しいわけじゃないよ、柳瀬」
「うん」
そー言えば。
全然気付かなかったけどここ、ホテルだ。
下着も服も、綺麗になってる。
暁のリビングから、たぶん柳瀬が運んだんだろうな。
もうあの家にはたぶん、柳瀬は帰らない。
「…………たぶん、ほんとに偶然、うん、偶然が、重なって。頭がぐちゃぐちゃになった。ありもしないこと勝手に想像して、騙されてるって思った。」
「なんでいきなり?あたしそんな柳瀬を騙す素ぶり見せたっけ」
「…………あ、暁、さんが」
「暁?」
まただ。
また、暁が絡むと柳瀬は顔色が変わる。
「ちがう、安角さんが…………」
「柳瀬。いい。無理に話さなくて大丈夫。ごめん。あたしが早計だったね」
タバコを持ったまま頭を抱える柳瀬の隣へと移動し、指から、タバコを奪う。
顔色、悪い。
せっかく戻ってくれたのにまた暴走させるのは、良くない。
「大丈夫、ごめん莉央ちゃん」
深呼吸、して。
柳瀬があたしを見る。
「全部はじめから、偶然なんかじゃなかったんだ。俺が組の女に手を出したのも所謂ハニトラみたいなやつだった。全部、暁さんが仕組んだことだったから。莉央ちゃんも、もしかしてはじめからグルだったのかなって」
「…………うん」
「GPS、が、自宅だったから」
「…………ごめん、スマホ忘れたの」
「うん」
あたしの手首を掴んで、奪ったタバコをあたしの手から直接吸い込んで、吐き出す。
「…………もう、誤解してない?」
「してないよ」
なら、いい。
今はまだ。
柳瀬の誤解が取れたならそれだけで、もう十分。