【保科宗四郎】副隊長は思ったより私のことが好きらしい【怪8】
第5章 ♡心も体も恋に堕ちて
「私の初めてとは……いったい……」
「もちろん性的な意味や」
「ぐッ! ド直球……!」
「せっかくの初めてなんやで、どうせなら美味しいもん食べて、お酒もほどよく飲んで、一番幸せそうにしてるちゃん抱きたいやん。そのための先行投資や」
「そんなヘンゼルとグレーテルにの魔女じゃあるまいし……」
「人を“食べる”と言う意味ではその魔女と僕は大して変わらんかもな」
いつもの飄々とした掴みどころのない笑顔とは違ういやらしく……艷やかに口角を上げた、獲物を狙う“雄”の顔。初めて見るその表情にドキリと激しく音を立てて脈打った私の心臓は一瞬で彼に鷲掴みにされてしまった。
もう料理やお酒の味なんてわかんない……。恥ずかしさを紛らわすために飲んだ梅酒の味のしないことしないこと。
私の赤くなった顔は決してお酒のせいだけじゃない、はず。「これ美味しいで」と目の前で海老しんじょのお吸い物を口にしている誰かさんのせいでもあると思う。というかむしろ九割九分九厘この人のせいだろう。
「せ、宣言しちゃってよかったの? 幸せどころかドギマギで緊張しまくるよ? 私」
「それはそれで美味しいかなあ思て。こうやって宣言しといたら、今からベッド行くまでずーっと僕のこと意識してくれるやろ?」
「っは……」
私が口撃したはずなのにあっさりとかわされた挙げ句、追撃され、私の方が戦闘不能になっている。おかしい、何でだ。視線すら合わせられなくなってしまった私は目の前に並んだデザートを凝視しながらチマチマとスプーンを動かす。気持ちはさしずめ、死刑台に上がる時間を何とか先延ばしにしている罪人の気分だ。もちろん悪いことは何もしていないけれど。
「ちゃんが机挟んだ反対側におってよかったわあ。隣やったらもう押し倒しとるで」
「……女の子の扱い慣れてる」
「んなアホな。僕がこんな風に接したいのはちゃんだけやで」
「それがもう慣れてるんだってば……」
「そないなこと言われてもなあ」
んー、と顎に人差し指を当てて考えていた宗四郎くんはポンと自分の手を叩き、ぱっと顔を綻ばせたがこの出来事に既視感がある。つい先日、彼が合同練習に無理矢理参加してきた日の宗四郎くんを彷彿させる笑顔だ。……あのときと同様、嫌な予感がするのは気のせいだろうか。