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【保科宗四郎】副隊長は思ったより私のことが好きらしい【怪8】

第5章 ♡心も体も恋に堕ちて


 私は学んだはずだった。口は災いの元だってことを。触らぬ神に祟りなしだってことを。……そう学んだはずだったのに。

「なぁんでこうなったのかなあ」

 私の間抜けな呟きとは到底縁がなさそうな、きらびやかな会席料理が目の前に並んでいる。普段ならなかなか食べる機会のない会席料理にテンションが爆上がって、目をキラキラさせていたと思う。普段なら。
 仕事が終わった! しかも明日は休みだ! と、部屋に帰ってたまにはビールでも飲もうかと思っていた私の前に、颯爽と現れた宗四郎くんはにこやかな顔で「もう上がりやろ? ほな行くで」と行き先も告げられず、拉致する勢いで連れ去られたのが約一時間前。宗四郎くんの愛車らしい黄色のMINIの助手席に押し込ま──ごほん。乗せられて随分と敷居が高そうなたたずまいの料亭に連れてこられ、今に至る。
 ああ……宗四郎くん、食べ方キレイだなあ……育ち良さそうだもんなあ……そう言えばお兄さんって……と現実逃避をするために、どんどん思考が明後日の方向はと進み始めた頃。こてんと小首を傾げた宗四郎に「口に合わんだ?」と尋ねられたがそれどころじゃない。

「何で会席料理……?」
「こないだのちゃんからご褒美、まだ貰ってへんやろ? 僕はあげたけど」
「あげるとは言ってない」
「アホ言え。自分、焼き肉で僕の財布空にしたやないか。不平等や」
「私よりカフカさんのが食べてたよ? 『他人の金で食べる飯はうまい!』……って」
「それも元はと言えばちゃんがあいつらまで誘うからや」
「それについてはごめんだけど……でもこれ、宗四郎くんへのご褒美じゃなくない? 私へのご褒美じゃない?」

 美味しい料理を食べに連れてきてくれた恋人……しかも支払いは彼が持ってくれるらしい。仮にも財布が空になった人が出せるような金額じゃないでしょ、ここ。この高給取りめ。羨ましい。
 ……にしても。これはどう考えても宗四郎くんへのご褒美ではなく、私へのご褒美な気がする。私ばかりがいい思いをしている気がしてならない。そんな私の気持ちがわかったのか、彼は「これは先行投資やと思っといて」とワケのわからない理由を述べた。何への先行投資なんだ、何への。
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