【保科宗四郎】副隊長は思ったより私のことが好きらしい【怪8】
第4章 タダより高いものはない
また宗四郎くんか! いきなり飛び付くなんて危ないじゃない! 一言どころか三言ぐらい文句を言ってやる! 眉尻を吊り上げながらそう意気込んだ私の目に飛び込んできたのは、ペイント弾とは違う……落ち着いたサーモンピンクの髪の毛。
「伊春くん!?」
「やったっすね! さすがセンパイ!」
「あ、りがとうだけど……早く離れた方が身のためかと」
「身のため?」
「ふーるーはーしぃぃい!」
ベリィッと効果音が聞こえそうなほどの勢いで私から引き剥がされた伊春くんは、宗四郎くんに首根っこをひっ掴まれたせいで首が絞まったのか「ぐえ!」と潰れた蛙のような声をあげてい少し申し訳なさを感じる。いや、私が悪いわけではないのだけれど。
怒り心頭らしい宗四郎くんは「どいつもこいつも!」「目ぇ離すとすぐこれや!」と文句を言いながら伊春くんをぽいとそこらへん捨ててしまった。不法投棄も甚だしいな。
にしても……ペイント弾がひとつもついていないのはもちろん、汗すらかいていないのはさすが副隊長といったところか。ピンクまみれの私とは月とスッポンだ。はあ……いつになったら彼の隣に並んでも恥ずかしくない人になれるのかなあ。何年経ってもできる気がしなくてちょっと落ち込むかも。
「ちゃんは! 保科宗四郎の恋人! はい、リピート!」
「え? センパイ保科副隊長のこ、恋人」
「勝手に触らない! はい、さんはい!」
「か、勝手触らない!」
「わかったか古橋!」
「ウッス!」
「……何やってんのよ」
「大事なことやんか!」
ム、と口をへの字に曲げた宗四郎くんは納得いっていない様子で「だいたい!」と矛先を私に向けてきた。しまった、これはめんどくさいやつかもしれない。そう思うもすでに後の祭りで「隙がありすぎる」だの「危機感があらへん」だの「男はみんな狼や」だの、好き放題言ってはぷりぷりと怒っている。
気のない返事をしても彼に怒られるだけなので、口をつぐんで静かに嵐が通りすぎるのを待……っていたかったのだけど、そうはいかないみたい。
私の前に現れた対戦相手の小隊長は、私と宗四郎くんと対峙するように立ちはだかった。また悪口言われるんだろうなあ、と内心ため息をついた私をよそに、戦いの火蓋を切ったのは──。