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【保科宗四郎】副隊長は思ったより私のことが好きらしい【怪8】

第1章 誰よりも


 ちらりと自分の腹筋に目を落として眉間にシワを寄せる。女性らしい体型かと言われたら答えはノーだろう。保科くんほどではないにしろある程度割れた腹筋にがっしりとした腕はどう見ても一般女性よりゴツい。会社員の友だちに「人よりゴリラの方が体型近くない?」と結構な真顔で言われたのは苦い思い出だ。気のおけない友だちだから許したけど、口の端がひきつってしまったのは覚えている。
 あ、思い出したら腹立ってきた。こんなときはやけ食いだわ。

「あー! 他人のお金で食べるお菓子は美味しいなあああ!」
「清々しいくらい現金なやっちゃな」
「いやあ。思い出し笑いならぬ思い出し怒りをしたらお菓子やけ食いしたくなって」
「何やねんそれ」
「友だちに『、最近人間ってよりゴリラに近づいてってない? 見た目が』って言われた私の気持ち保科くんにわかる? わかるっ!?」
「ぶはっ! だーっはっは! 何やそれ! ほんまウケんねんけど! ゴリラて!」
「笑いすぎッ!」

 ぎゃん! と怒れば「せやかてなあ!」と言いながら笑いが止まらないようで、床をのたうち回りながら爆笑しているこの笑い上戸をどうしてやろうか。感情のまま、うらっ! と殴りかかってみるも当たり前にかわされて余計に腹が立っただけで何だか虚しくなる。
 口をへの字に曲げてまたポテトチップスを食べ始めた私に「そう怒らんといてぇ」と間延びした声をかけながら目尻の涙を拭う保科くん。さっきから絶対悪いと思ってない! 私で遊んでる!

「いいよね保科くんは。筋肉ついてもしなやかで綺麗な体型でさ」
「ンフ。ちゃんかてゴリラほどマッチョちゃうやん、まだ。くふっ」
「笑うか喋るかどっちかにしてくれる? あと一言余計」
「ちなみに何種目指してるん? マウンテンゴリラ?」
「……」

 私の中でブチッと何かが切れた音がした。素早く体勢を整えてしゃがみ蹴りを繰り出したが華麗なバク転で避けられてしまう。だけどそんなことは想定済みだ。勢いはそのままに足の指で食べかけのモンブランのカップをお行儀悪く掴み取って手に入れる。驚いたように見開かれた彼の紅紫色の瞳に私が映ったのを確認してからこれ見よがしに意地悪く笑って、残りのモンブランを口へと放り込んだ。
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