【保科宗四郎】副隊長は思ったより私のことが好きらしい【怪8】
第1章 誰よりも
「どや? 美味いか?」
「甘い」
「甘なかったらモンブランちゃうわ」
「でも……美味しい」
「せやろ? もうやらんけどな」
「勝手に人の口に突っ込んだのは誰よ」
「誰やろなあ。僕知らんわ」
「まったく」
「ちょっとは元気出た?」
そう言いながらウキウキとモンブランを食べ始めた保科くんに思わずギョッとする。何か問いかけられたけどその問いかけは何一つ頭に入ってこない──というよりも入る余地がない。私の頭は違うことでメモリがいつぱいになっているのだから。
はくはくと金魚どころか鯉のように大きく口を動かしていると、怪訝そうな顔で保科くんは首を傾げた。スプーンを口にくわえながら「どないしたん?」と聞かれたけれど私がそっくりそのままその言葉を返したい。あんたこそどうしたんだと。
「スプーン……」
「ん?」
「新しいスプーン……無いの?」
「ああ、これ? あらへん。元々僕が一人で食べるつもりやったのにわざわざ二本も貰うわけないやん」
「無いって知ってたら! 口つけなかったのに!」
「はっはー。何やちゃん、僕と間接キスしてしもたんがそない気になる?」
ニヤニヤと口角を上げて「うぶで可愛らしいなあ」とからかってくる保科くんにキッと目を吊り上げるも、たはたはと笑われるだけ。きっと顔も赤くなっているだろうから、睨まれたって怖くないぞってとこかな。何か恋愛初心者みたいで悔しい。いや、初心者なんだけどさ。
ふんっとそっぽを向いて手近にあったポテトチップスの袋を豪快に開ける。私がこないだカフカさんと食べてみたいと騒いでいたコンビニ限定の味だ。
ポテチにはコーラ! とペットボトルのコーラの蓋も開けるとカシュッと小気味いい音を鳴らしたあと、強めの炭酸が私の喉を通り抜けて気持ちいい。ダンッと強めに床へペットボトルを叩きつけてから保科くんを見やる。
「今日はチートデイ! 好きなだけ食べる!」
「ははっ! そうこな!」
「ちなみに保科くんのおごり?」
「当たり前やろ。女の子に払わせるかいな」
部下だからじゃなくて女の子だから、か。女の子扱いされていることが嬉しくてじわじわと頬が熱を持つ。もうズルい。ズルいズルい。女の子が──私が喜ぶことをちゃんとわかっている。いいなあ。彼と付き合えた人はちゃんと女の子扱いしてもらえて。