【保科宗四郎】副隊長は思ったより私のことが好きらしい【怪8】
第1章 誰よりも
そんな私を見て「ア"ーーー!!」なんて断末魔にも近い保科くんの叫び声を聞けて満足満足。ぺろりと口の端を舐めて「ごちそうさま」と告げれば凄い勢いで胸ぐらを掴まれガクガクと前後に揺さぶられる。ちょっ……激しい……胃の中の物出るぅ……!
「何さらしとんねんワレェ! 僕のモンブランを! アホみたいな顔で食べよって!」
「保科くんこそ花の乙女をゴリラ扱いして! 眼科行った方がいいんじゃない!?」
「なぁにが花の乙女や! どうせなら戦いの女神にでもなって防衛隊に貢献せい!」
「──っ」
売り言葉に買い言葉なだけ。頭ではそうわかっているはずなのに……保科くんから吐き出された言葉にぐっと息をのむ。急に静かになった私を不審に思ったのか、胸ぐらを掴んでいた手を緩めた保科くんは「ちゃん?」と私の名前を呼びながら顔を覗きこもうとしてきたのでそれを阻止するため、彼の顔面に手を押し当ててぐいぐいと力任せに押し返す。
きっと今、ものすごく情けない顔してる。こんな顔、保科くんにだけは見られたくない。見られたくないのに──優しく私の手首を掴む骨ばった手の感覚にどうしても力が抜けてしまう。心配そうに見開かれた双眼と目が合ったら最後、捕らえられたようにその視線から抜け出せない。あー……こんな状況でも心配されて嬉しいとかさ、やっぱ私って花の乙女じゃん。
「すまん……言い過ぎてしもた」
「そんなことないよ。私、いつまで経っても弱いからさー! 解放戦力も伸び悩んでるし。みんなの足引っ張っちゃって貢献できてないのは事実だか──」
「なあ。それ誰かに言われたん?」
先ほどまでのおちゃらけた声色とは全く違う……少し低い真剣なトーンで聞かれてびくりと肩が跳ねた。あ。とか、え。とか意味のなさない言葉を紡いでいると何もかも見透かしたような瞳が私を射抜いてくる。
気を遣われないようわざと明るく答えたつもりだったのに……どうしたものか。何と答えよう、と悩んでいると保科くんがおもむろに私の頬をそっと撫でて「泣くなや」と言ったことで私は自分が泣いていることに初めて気付かされた。一度自覚してしまうと泣かないようにする、というのはなかなか難しく……瞬きをするたびはらはらと目から雫が落ちていった。
……何で保科くんまで泣きそうな顔してるの?