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【保科宗四郎】副隊長は思ったより私のことが好きらしい【怪8】

第1章 誰よりも


 どいうつもりなのか表情を読み取ろうとしたけれど……いつもの飄々とした笑顔を浮かべる副隊長からは無理だと早々に判断して前を向いた。にしてもこれは一体全体どういう状況なのだろう。保科副隊長は楽しい場が好きなのだとばかり思っていたから、慰労会に参加しなかったのはちょっと意外だなあ。

「もう勤務時間過ぎとるし。昔みたいに役職名無しで呼んでえな」
「……まだ基地の中ですし、それはいかがなものかと」
「敬語もいらん。上官命令って言うたらええ? それとも保科宗四郎からのお願いって言おか?」
「……保科くんの頑固者」
「あはっ、今さら知ったんか?」

 私がこの日本防衛隊第三部隊に配属されたのと同時期に配属されたのが保科くん。私たちはいわゆる同期というやつなのだ。最初こそタメ口に加え、保科くんと呼んでいたが副隊長となった彼をそう気安く呼ぶ図太い神経などさすがに持ち合わせていないわけで……いつの間にか私たちの間には随分と大きな差が出来てしまったなあ、なんて。
 自分で買ってきたモンブランに浮き足だった様子の保科くんを見て思わず苦笑い。こうしているとあの頃に戻ったみたいだ。

「相変わらずモンブラン好きなんだね」
「そんなん言うてもやらへんで?」
「いや、取らないよ」
「せやけどちゃん今日頑張ってたからなー。特別やで?」
「え?」

 ポカンとする私を尻目に保科くんは新品のスプーンでモンブランを一掬いすると「はい、あーん」と言ってそれを私の口元に差し出してきた。このオカッパ糸目は本気なのだろうか……恥ずかしさから思わず心の中で悪態をつく。
 なかなか口を開かない私に痺れを切らしたのか片方の眉毛だけを器用に少しだけ吊り上げた彼は「僕のモンブランが食べられんてか?」とか言い出した。
 これまでにお酒を強要されたことはあったけれど、まさかモンブランを強要されるとは微塵も思っていなくて。ふはっと笑い声を漏らした瞬間──待ってましたと言わんばかりにスプーンが無遠慮に私の口めがけて突っ込まれる。
 その拍子にン"フとまたもや変な声を上げてしまったけれど、今日はそういう日なんだと考えることを放棄することにした。あるよね、何やってもダメな日って。きっと今日はそういう日。うんうん。
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