【保科宗四郎】副隊長は思ったより私のことが好きらしい【怪8】
第3章 苦くて甘い人生を
そうじゃない、嬉しいよ。それだけは伝えたくて必死に首を横に振って否定の意思を伝える。
「ほ、欲しい……」
「ん?」
「指輪……欲しいし、出来ればお揃いがいい……です」
恥ずかしさからどんどん尻すぼみになっていく言葉と、どんどん下がっていく私の顔。どんな顔していればいいんだ……と心の中で一人ごちっているも、一向に宗四郎くんからの反応がない。お揃いの指輪が欲しいなんてがめつい奴だ、ともしかして愛想を尽かされたんじゃないのかと急に不安になって勢いよく顔を上げる。どんな顔してたらいいのかとか、もはやどうでもいい。嫌いにならないでくれたら、何でもいい。
私が急に顔を上げるとは思っていなかったのか「うおっ!」と驚いた彼の顔を見て、今度は私が驚く番になるとは私も思わなかったけど。
「こっち見んな」
「いや、無理でしょ。耳まで真っ赤な宗四郎くんなんてウルトラレアだよ。転売したら高値で売れるよ」
「売ろうとすんな。あと転売は普通にあかん」
「んふふ。物珍しい宗四郎くんが見られたから指噛んだのは許してあげる」
「そらどーも」
「指輪、お揃いにしてくれる?」
「当たり前や」
「あはは! 返事食い気味!」
すっかり毒気の抜かれた私は、宗四郎くんが淹れてくれていたぬるい珈琲を口に含みながら噛み跡のついた左手を眺める。当分は絆創膏でも巻いてごまかすつもりだけど……近いうちにここに指輪が……嬉しい予感しかしない未来に自然と顔が緩んでくるのが自分でもわかってしまう。
私より宗四郎くんのがずっとかツンデレじゃん。好きな子はいじめたくなるタイプのツンデレじゃん。香ばしくていい匂いなのに飲んだら苦い──だけど癖になってやめられない、そんな珈琲みたいな私の彼氏。
「今度の休み、指輪一緒に見に行こな」
「うん。楽しみにしてる」
照れを隠すようにへへっと笑った私を見て優しく微笑んでくれた彼の愛情表現は普段の飄々さとは裏腹に重めらしい。そんなところもより一層好きになる要因のひとつでしかないのだけれど。なんて私の脳内はお花畑そのもの。
「ほな、給料三ヶ月分の指輪贈ったるでな」
──だったけれど、宗四郎くんが落とした爆弾によって一瞬で焼け野原と化してしまった。
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