【保科宗四郎】副隊長は思ったより私のことが好きらしい【怪8】
第3章 苦くて甘い人生を
「どうせちゃんに可愛がられるんやったら犬がええな」
「犬ぅ? 何で?」
宗四郎くんって猫っぽいのに。なんて思いながら首を傾げていると「僕ってご主人さまに忠実やろ?」って言われ、確かに亜白隊長にゾッコンだもんなーとなんて納得してしまう。けど忠実なのは亜白隊長だけに対してだけのような……? 亜白隊長がご主人さまがどうかさておいて。
「それに僕、一途やねん」
「亜白隊長一筋だもんね」
「なんでやねん」
「ん?」
「僕はちゃんに一途なんやけど」
「わ、私?」
「せや。やから僕のこと、うんと可愛がらなあかんで? やないと──」
ぐいっと繋がれていた手を急に引っ張られてバランスを崩し、宗四郎くんの肩辺りに鼻をぶつける。あいたた……大して高くない私の鼻がぺちゃんこに……なんて思いながら空いている右手で鼻を押さえた瞬間、左手に強い痛みを感じて「い"っ!」と微塵も可愛くない悲鳴をあげた。
何事だと反射的に上げた顔で見えたのは──私の指に噛みついた宗四郎くん。目をこれでもかと見開いた私と視線がぶつかったかと思えば、更にきつく噛みつかれて「痛い痛い!」と涙目で訴えることしかできない。
「飼い犬に手ぇ噛まれる、なんてことになるかもなあ」
目を細めて意地悪く笑ったあと、くっきりと彼の歯形がついた私の指にちゅっと可愛いキスを落としたからって──。
「私がキスごときで絆されると思うなよ! 痛い! 痛すぎたんですけど!」
「堪忍してぇや。ちょっとした出来心やんか」
「そんな万引き犯の常套句みたいなんで許せるわけないでしょ!」
「……元はと言えばちゃんのせいやで」
「は? 何で私!?」
「仕事中、僕は保科副隊長としか呼んでもらえへんのにカフカの事はずーっと名前で呼んどるし! すぐベタベタ触らせよるやないか! 何かあると僕よりカフカのこと庇いよるのも腹立つ!」
「……え?」
「僕かて名前でずっと呼ばれたいし、ベタベタ触りたい! 庇われたい!」
「いやあ……でも宗四郎副隊長は長いし語呂が悪いから」
「ああもう、そういうことちゃうねん!」